星に願いを―さつき断景―(著:重松清)を読んだ。
年の瀬がせまり、今年は色々あったなぁ・・・
と振り返っているときに、ふと、この本のことが頭に浮かんだので読み返しました。
この本は、読書感想文としてまとめるのはかなり手強いのですが、頑張ってまとめてみました。
『星に願いを―さつき断景―』のあらすじ
どこにでもいる、ごく普通の市民である男性3人の、
1995年~2000年の6年間のうち、5月1日の情景だけを切り取ったお話しです。
高校一年生だったタカユキが20歳になるまでの6年
1995年1月17日に発生した『阪神・淡路大震災』は、彼の心の成長に大きな影響を及ぼしました。
何かに突き動かされるようにしてボランティアで神戸へ行き、
そこで彼の中で燃え上がった『新しい人生』を生きるのだと!
という強い思いは、ボランティアを終えて自宅へ戻り、日常生活をおくるうちに薄れていき、やがて、どこにでもいるイチ男子高校生に戻ってしまいます。
- 学校をサボル
- 友人との付き合い方の難しさ
- 進学とその後の人生への漠然とした不安
- 付き合っている彼女が見せる女心の謎
などなど・・・。
誰もが通ってきた10代後半の情景が、
毎年、少しずつ成長するタカユキの心の呟きと共に、描かれています。
働き盛りの30代だったヤマグチさん一家の6年
小学生の娘と妻と、幸せな家庭を築いていた30代の会社員ヤマグチさんの人生は、
1995年3月20日に起きた『地下鉄サリン事件』によって一変することになる。
間一髪で事件に巻き込まれずにすんだヤマグチさんは、
その強烈な体験と『生と死を分ける偶然』に恐れを抱き、すべての事をマイナスに捉えるような心身喪失症になってしまう。
- 娘を自宅から送り出す時にも、通学路にもしも『変なヤツがいたら・・・』
- 妻と娘が車で出掛ける際に『万一の事故を考え娘に座る位置をしてしまい』
- 1999年が近づきノストラダムスの予言を考えると『それまでのように笑って流せなく』なる
など、彼の人生に起きる様々なことを、
ことごとくマイナス思考で考える人生になってしまいます。
定年間際の50代だったアサダさん一家の6年
一流大学を卒業し、大手商社に勤めたアサダさん。
妻と共に、子供2人を育てあげ、50代半ばに差し掛かっていました。
1995年5月1日、アサダさんは長女・春香を嫁に出す日を迎えていました。
間もなく定年を迎える前に、会社の上司から出向を命じられます。
意に沿わない仕事ではあり、激しい出世競争からは脱落したことで、
逆に彼の仕事人生はおだやかなランディングを迎えようとしていた。
しかし、マイペースでいながら、家族4人の絆を繋ぐ役割を果たしていた妻との死別が、彼の終末への人生に波紋を投げかけます。
妻に先立たれ、家に残された長男・夏彦との距離感に、男同士だからこそ余計に苦労し、悩む日々。
嫁にいった長女が生んだ、孫との幸せな日々。
そして、なによりその幸せな時間を共に過ごしたかった妻が居ないことへの寂しさと、何一つ妻への感謝を表せなかった自分のこれまでの人生を振り返り、後悔する日々が描かれています。
この本で一番心に残ったシーン
自分は40代になり、家庭もあるが、子供はいません。
その自分の状況が影響しているのか、
30代のヤマグチさんの気持ちで理解できる部分もあるのですが、
共感できない部分もありました。。
それゆえ、今の私にとって一番心に残ったシーンは、
10代のタカユキの話しにありました。
2000年5月1日のタカユキ
高校時代から付き合ってきた彼女との別れの話です。
お互い、言葉には出さないけど、心のどこかで感じている。
『これが、合うのが最後になる』と。
淡い、せつない思い出として、今までの人生での出会いと別れを思い出しました。
タカユキの最後の台詞がなんともいえません。
「さよなら」なんて要らないんだ、と思った。
本著280ページより
『星に願いを―さつき断景―』のオススメ度は?
オススメ度は80点です。
この本を読んでも、
- 号泣するとか
- 自分の人生に変化が起きるとか
- 誰かに話したくなるとか
そういう影響力はあまり無いかも知れません。
なぜなら、この本で描かれているのは、
何処にでもいる、ごく普通の男性3人の、6年間の記録です。
実際にピックアップされているのは、5月1日ですが、
読むにつれ、彼の来年はどうなるのだろうか?と気になるのが、この本の良さかも知れません。
難しい小説とか苦手な方にはオススメかもしれません。
『星に願いを―さつき断景―』のまとめ
小説ではない、エッセイともちがう、不思議な1冊です。
- 10代後半の少年から青年への時代。
- 30代の男として一番脂が乗る時代。
- 50代後半の人生のゴールを見据え始める時代。
この本は、読む人を選ぶのかも知れません。
20代の読者
10代のタカユキの話しはリアルに感じられるかも知れませんが、
ヤマグチさんとアサダさんの話は遠い未来の話になるように思います。
40代の読者
やはり、ヤマグチさんの言動に親近感を覚える人が多いと思います。
特に娘を持つ父親でしたら、共感する部分が多いのではないでしょうか?
10代のタカユキの話しは、感じ方が分かれるかも知れません。
- 自分が過ごしてきた時代を懐かしんで読む人
- 子供を持つ親の立場の人は、自分の子供がこれから潜り抜けていく10代後半を思い、不安に感じる人
一方、アサダさんの50代後半については、20代に比べればリアルに考えるようになるでしょうが、まだ、どこか他人事かも知れません。
50代後半以降の読者
判りません。
僕はまだその年代に達していないので、どういう感想を抱くのか謎です。
- 納得なのか
- 後悔なのか
- 寂しさなのか
- 怒りなのか
人生のゴールへ向かう日々がいずれ来ることは判っていますが、
まだ、その時に抱く感情は想像出来ません。
今、40代でこの本を読んだので、
50才を過ぎてから、また読んでみたいと思う1冊でした。