めぞん一刻(作:高橋留美子)を読んだ。
このブログでは本の感想文を随分と書いてきましたが、漫画の感想文は初めてです。
実は、本以外に漫画も大量にあるので、いつかはまとめたいと思っていた所、この春、病気で自宅療養となり、時間を持て余し本棚を漁って古い本を発掘しては、読み散らしていました。
その時に、この懐かしい本を見つけて読んだのです。
初めての漫画感想文、トップバッターを飾るには最高の一冊と思うのですが、どうでしょうか?
ネタバレも若干ありますし、何よりも私感に片寄ったまとめだと思いますが、どうか許してください。
単行本15冊、連載7年に及ぶ作品です。
掲載媒体:ビッグコミックスピリッツ(まだ現役の雑誌)
単行本は15冊、ワイド版と文庫版は10冊。
掲載時期は1980年~1987年。
『バブル』に浮かれる直前の、経済が好転する前の不景気が背景が描かれており、それが主人公の就職活動にも反映されています。
もしも、バブルを背景に描かれていたら、また、随分と違った物語や展開になったと思います。
(粗筋)
地方から上京し、ボロボロのアパート『一刻館』で大学を目指す浪人・五代と、そのボロアパートに住み込みの管理人としてやって来た若き未亡人・音無響子が、この漫画の主人公である。
読者は、主人公・五代が大学入学、卒業、就職と失業、そして生きる道を見つけ、伴侶を得るまでの人間的成長を、響子とともに見守ることになります。
また、ボロアパート『一刻館』は漫画のタイトルでもあり、そこに住む得体の知れぬ住人達とのやりとりは、この漫画の大切なパーツです。
そして、彼らの友人や知人、または家族等と共に織り成す人間活劇に、読者も一緒に笑い、悩み、共感し、泣くことになるでしょう。
作者が、この物語に込めたテーマは、
『人は、愛した人を喪った時、どうやって次の一歩を踏み出すのか?』
このシリアスなテーマを、笑いの絶えないドタバタ人間活劇で深刻にさせないようにしながら、それでも、最後の最後まで読者に問いかけ続けけています。
恋愛漫画の王道!
ヒロインを巡り、男二人がライバルとなって取り合います。
- 五代…年下、貧乏、浪人、学生、無職、カイショナシ
- 響子…美人、未亡人、嫉妬深い、鈍い
- 三鷹…金持ち、イケメン、3高(高学歴、高収入、高身長)、犬嫌い
この3人が数年掛けて繰り広げる恋愛劇です。
3人の背景は、恋愛ものの典型的なパターンと言えます。
コテコテの関係なんですが、作者が女性だからか、多くの男性読者に希望を持たせる恋愛劇を見せてくれます。
現実世界でも、響子さんみたいなヒトが何処かにいるのでは?と。
大学生になったら、管理人さんがいるアパートに住みたいと思ったのは、私だけではないはず…。
めぞん一刻のテーマとは
粗筋の部分にも書きましたが、かなりシリアスなテーマが込められています。
ですが、それでも漫画をシリアスにし過ぎないところが凄い!
基本は恋愛漫画ですが、かなりギャグの要素も含まれており、それがシリアスな雰囲気を和らげています。
だいたい、登場人物の名前の付け方だって、ふざけてます。
主人公の五代に、音無(旧姓千草)、住人達は一号室が一の瀬、二号室に二階堂、四号室が四谷、(五号室が五代)、六号室が六本木、、、
住人以外の主要登場人物は、ライバルが三鷹、五代に絡み響子をヤキモキさせる女の子達は、七尾、八神、三鷹に絡む女の子が九条・・・。
みんな数が関係している・・・。
これだけをみれば、ボロアパート一刻館で繰り広げられる喜劇でしかない。
しかし、根底に流れるテーマはシリアスなのです。
響子は、登場から最後の最後まで、亡くなった旦那・惣一郎のことを、ずっと心に残し続けている。
飼い犬の名前が惣一郎なのは、懐かしんでではなく、生前からではあるが・・・。
それにしても、自分が愛した人が、飼い犬に亡くなったご主人の名前を付けていたら・・・、なかなか重いと思う。
この漫画が問うているのは・・・
- 愛する人を亡くしたとき、忘れなければ先に進めないのか
- 愛する人を心に残した人を、どうすれば先に進ませられるのか
このテーマの答えは一つだけではないと思います。
五代と響子が辿り着いた答えは・・・
漫画で確かめてください。
80年代を知るのに役立ちます!
掲載された時期が80年代なので、描かれている背景や小道具がとても興味深いです。
読む人によって、感想は違うのではないでしょうか?
- この時代を懐かしく感じる人
- この時代の話を先輩や知人、上司から聞いた人
- この時代の話を親から聞いた人
- この時代のことをまったく知らない人
私は1と2の中間ですね。
描かれている背景、道や駅、車や自転車、建物や行き交う人の雰囲気に、子供心ながら見覚えがありますし、五代の婆ちゃんの雰囲気は、まんま自分の婆ちゃんで、ちょっと懐かしくて泣きそうになりました。
この漫画から切り離せない小道具は、電話です!
ボロアパートに設置されているピンクの公衆電話は、もはや絶滅危惧種でしょう。
古い旅館でも、中々お目にかかる機会は無いと思います。
さらに、このアパートには共同電話があり、管理人や他の住人が電話を取り次ぐシステムです。
そのシステムが、この漫画では様々な話のネタを提供することにもなります。
そして…
当たり前ですが、携帯電話は存在していません!
だから、ちゃんと約束をしないと、待ち合わせ場所で出会えないし、逆に電話を逃したくないとなると、電話の前に居なくてはならないし、このような固定電話ならではの特徴を意識しながら読むと面白いと思います。
他には、今なら当たり前の薄型テレビ、さらにDVDやBD等の録画機械ももありません❗
電子レンジがないから、冷凍食品も出てこない!
たしか、コンビニも描かれていなかったはずです。
80年代には既にあったはずですが、子供の頃の記憶を遡っても、小学校時代に身近にコンビニがあった記憶はないなぁ・・・。
わずか30年…
されど30年…
随分と変わったんだなぁ~と思います。
めぞん一刻の何が凄いのか?
この漫画の凄いところは何かと言えば、それは2つあります。
1つ目、緻密に練られたキャラクター設定
五代と響子は、成長していくので少しずつ変わっていくのですが、他の登場人物は最初に設定されたキャラを最後まで徹底させることで、ある意味、読者に安心感を与えているように思います。
特に、一刻館の住人たちのキャラ設定は秀逸です。
スチャラカにみせつつ、住人達のまとめ役の一の瀬。
最後まで、謎な部分を明かさなかった不良住人の四谷。
いそうでいない、いて欲しいと期待させる隣のエロ姉ちゃんの六本木。
他にも、惣一郎の顔を最後まで描かなかったのも良かったです。
7年に渡る連載で、多少(響子の顔は結構変わったかも)絵に変化はあれど、登場人物のキャラ設定を最後まで守り通したことが、それぞれのキャラに付いたファンを喜ばせたのではないでしょうか?
2つ目、良い物は時代を超える!
先に述べたように、この漫画が書かれたのは80年代前半から中頃にかけてです。当然、その舞台も30数年前になるわけです。
文明の機器は発展しておらず、今とは異なる生活スタイルな訳です。
しかし、だからと言って『読むな絶えない』なんてことはありません!
古くさいけど、『面白いから我慢して読もう』なんてこともありません!
この漫画が舞台としている80年代に、読者がすんなりと馴染むことが出来るのが、この漫画の凄みかもしれません。
古い映画やテレビを観たときに、本当にいい作品は何年たってもその良さが失われないことがあると思うのです。
先日、カリオストロの城をテレビで観ました。
1979年公開の作品で、多分…観るのは3回目か4回目です。それにもかかわらず、その面白さは全く色褪せていませんでした。
だから、未だに視聴率が10%を超えるのだと思います。
話が逸れました。
この漫画の凄みは、この先何年後に読んでも、面白い!と思えることだと思います。
『本当に良い作品は時代を超える!』
お気に入りの話
数が多すぎて、悩んだのですが・・・以下の3つを選びました。
『春の墓』
旦那さんの墓参りは、1回忌からこの漫画では取り上げられているが、響子の両親の再婚押しが回を重ねる毎に強くなっていた。
そして4年目、響子は今年も母親とのバトルを覚悟して出掛けるのだが、母親も中々の策士。敢えて今年は触れない作戦に出るのである。響子は最後まで身構えているだが、結局、肩透かしとなってアパートに戻り、一の瀬にその話しをする。
すると、一の瀬が『で、何の話をしたんだい』と。
だから、『再婚の話しはしていないの』と答えると、
『だから、旦那といっぱい話せたんだろ?』と。
そこで、ようやく、響子は気付く。
『母親の再婚話にばかり気にして、惣一郎さんを考えてなかった』
『私、少しずつ忘れている』と。
日を改め、旦那の墓参りをするのだが、このシーンは本当に秀逸です。
響子さんが墓参りに行ったことを、不良住人の四谷に聞いた五代は、霊園に駆けつけます。響子さんが座り込む惣一郎さんの墓の裏側にしゃがみ、響子さんに声を掛けるタイミングを伺っています。
この場面、ナレーションとして響子の葛藤が流れている。
「少しずつ忘れることを、悩んでいること」
「でも、それが普通なのかもしれないと悩むこと」
「いつか少しずつ忘れていっても、許して欲しいこと」
これらの、響子の心の声は、読者には聞こえる(読める)が、五代にはもちろん聞こえていない。
ただ、ひとつ、響子が声に出したことだけが五代の心に残るわけです。
『どうして、死んでしまったの』
『生きてさえいてくれたら、こんなに悩むことはなかったのに』
物語の中盤で、これだけシリアスな話しを入れ込む作者の技術は本当に凄いと思います。普通、これだけシリアスになったら、話は終盤に向かって一直線だと思うのですが、めぞん一刻はここからがまだまだ盛り上がるのですから。
『本当のこと』
一刻館の住人六本木が、五代に金を貸してくれと電話してきて、真面目な五代は届けます。ラブホテルに・・・。彼女が誰と何をしていたのかは、全く触れられません。
問題は、六本木と五代が外に出た時に、五代の彼女『七尾こずえ』とばったりと出くわすことになり、そこから騒動が発展します。
こずえは響子にその話しをすると、響子も響子で、六本木が冗談で『五代とやっちゃうよ!』と言っていたことを実行したと勘違いし、五代に対し怒りを露にします。
一方、七尾は恋人の信じられないシーンを目の当たりにして失意の最中、以前よりプロポーズをしてくれていた男性と結婚することを決めてしまいます。
五代が真相を話そうと職場に電話をしてきても、居留守を使い出ず、このまま関係は消滅すると思われたのだが、、、。
偶然出会ったアパートの住人・二階堂から、五代がホテルから出てきた『本当のこと(理由)』を、聞くことになります。
既に、結婚を決めていて、それを解消する気にはなれなかったが、五代とこのままで別れる事はしたくないと思い、彼の職場へ行き話しをしようとします。
しかし上手く話すタイミングが掴めなかったのですが、仕事帰り駅までの道すがら、ようやくこずえはようやく話しを始める。
『嫌いにならないで・・・』
それを五代が遮り、逆に謝り始める、『ごめん。他に好きな人がいる』と。
最後は、お互い様だね。と、こずえもスッキリした表情で、駅で別れを告げる。
この時の別れが切ないのです。
別れはいつだって切ないだろ!と言われそうですが、この漫画の描かれた80年代の別れを知っている人は、きっと判るはずです。
この別れは『永遠の別れ』なんだな。と。
今と違うのです。
一度、別れたら、もう相手のその後を知ることは普通出来なくなります。
携帯はありません。
だからメールはありません。
そもそもネットもないし、ラインもFACEBOOKもありません。
今の世の中、昔の彼女や彼氏の動向が、ひょんな事から判ることがあります。
でも、80年代、90年代は、別れは永遠の別れでもあったわけです。
それを思いながら、こずえの最後の台詞と微笑を見ると、とても切ない気持ちになってしまうのです。
優しく微笑みながら『さよなら』そして『げんきで』。
何度読んでも、このシーンでは目の奥が、ちょっとツーンとしてきます。
『桜の下で』
ついに五代と結ばれ、家族への挨拶も済ませ、あとは式を迎えるだけとなった二人ですが、二人の心の中にはまだ『響子の最初の旦那・惣一郎』が。
結婚後は二人で管理人室に住むため、荷物を片付けていた響子は、小さな箱を押入れで見つけます。
中には、惣一郎の遺品が。
その思い出の品を久しぶりに見て、響子は静かに涙しながら、音無家に返さなくてはいけないと決断する。
一方、五代は、泣いている響子を見て、無理に返さなくていいと響子に伝えるが、心では、響子の中にまだ旦那さんがいることに、もやもやした思いが。
翌日、五代と響子はそれぞれ、惣一郎の墓前に向かいます。
先に、着いたのは五代、それをみつけた響子は墓石の影に隠れます。
このシーンでの五代の台詞が、とても深いんです。
『響子さんに出会ったときにはあなたがいた』
『だから、あなたごと響子さんをもらいます』
初めてこのシーンを読んだときはまだ高校生でした。
それから何度も読んでますが、自分の成長(経験してきたこと)とともに、この台詞の重みが変わっていくのが感じられます。
めぞん一刻のオススメ度は?
オススメ度は100点!
漫画が好きだったら、一度は読んで欲しいです。
ただの恋愛漫画ではありません。
主人公の2人だけでなく、登場人物の心の機微を描いた作品です。
- かつて、単行本を持っていた人なら、ワイド本オススメです。
表紙の絵と裏表紙のカラーの部分が何とも言えないほどいいんです。
めぞん一刻全10巻完結(ワイド版) [マーケットプレイス コミックセット]
- 作者: 高橋留美子
- 出版社/メーカー: 小学館
- メディア: コミック
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- 連載当時、雑誌だけを読んでいて単行本を買っていなかった人
当時発売された15巻ものがオススメです。
表紙の絵に、必ずや懐かしい思いを感じるはずです。
- 初めての人は、とりあえず読んでみようと思う人
文庫本がいいと思います。
めぞん一刻 文庫版 コミック 全10巻完結セット (小学館文庫)
- 作者: 高橋留美子
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2011/03/01
- メディア: 文庫
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