血涙 ~新楊家将~(著:北方謙三)を読んだ!
楊家将を読み終え、続編の「血涙」も続けて読むことにしました。
前作の楊家将は、中国の「楊家将演義」をベースにしていますが、内容的には翻訳ではなくて北方さんのオリジナルでした。
そして今回の血涙は、完璧にオリジナルです。ベースとなる中国版もありません。
男達の戦いを熱く描いた血涙!
読み終えましたので感想をまとめます。
『血涙 ~新楊家将~』のあらすじ
あらすじの前に時代背景をまとめます!
(10世紀末~11世紀初頭の中国北部の時代背景)
唐王朝の滅亡後の群雄割拠時代を制し、再び中国を統一した宋王朝。
この宋の代々の皇帝は、北の遊牧民族の国・遼に奪われている漢族の土地・燕雲十六州を取り返すことを悲願としていました。
そのため、宋は度々遼へ大軍を編成して侵攻するのですが、兵の質が優れる遼は跳ね返し続けていました。
しかし、遼は国力で劣るため、次第に劣勢になっていくことを憂いていました。
そこで、乾坤一擲の賭けに出ます。
1004年、遼皇帝自らが軍を率いて宋へ侵攻します。(血涙では違います)
対する宋皇帝自身も軍を率いて戦場へ出て、遼に対して抵抗する姿勢を見せます。
しかし、最終的には外交で決着がつけられます。
これが、『澶淵の盟』である。
宋を兄、遼を弟としてはいるが、宋は遼に対して毎年多額の銀と絹布を納めることになっており、また、燕雲十六州には二度と攻め入らない事を約束するなど、実質的には遼に有利な条約でした。
この条約締結後、12世紀前半に宋が金と結んで遼を滅ぼすまで、100年以上に渡って平和な時代が両国に訪れました。
(物語のあらすじ)
前作『楊家将』のラストにおいて、宋軍の裏切りで楊家軍は棟梁である・楊業を失ってしまいます。
また、楊業の7人の息子のうち、六郎と七郎の2人を除く5人の息子達が、戦死または行方不明となります。
このような厳しい状況の中で、楊家軍を再建するところから物語りは始まります。
宋の皇帝は裏切りによって死んだ楊業を悼み、残された楊業の妻と都の館はそのままにしました。しかし、裏切った譜代の将軍を死刑にすることはせず、ただ平民に落とすだけに留めました。
また、楊家軍を支えた収入源であった塩の専売を禁じます。
このような状況の中、楊家軍の棟梁となった六郎は宋への不信を拭えず、
また、楊家軍の再建をどのような規模・編成にするか悩んでいました。
更に、先の戦争を辛うじて生き延びた弟の七郎は山中に篭ってしまい、楊家軍の再建に手を貸そうとはしませんでした。
しかし、先の戦を生き延びた部下達が逞しく生きる姿を見て、そして彼らに叱咤激励されるうちに、六郎も七郎も、もう一度楊家軍を再建することを決意します。
彼らが選んだ再生楊家軍の編成は、騎馬隊でした。
精強な騎馬隊を育て、遼の最強武将・耶律休哥が率いる軍と再戦し、父の仇を討つ決意するのでした。
先の戦で戦死したと思われた四男の四郎ですが、実は、重症を負いながらも耶律休哥に助けられていました。
先の大戦において四郎は、楊家軍を離れて別働隊の将として軍を率いていたため、楊家軍の一員だとは遼側に知られておらず、そのため耶律休哥も敢えて殺そうとせずに捕虜としたのでした。
遼陣営にて息を吹き返した四郎は、全ての記憶を失っていました。
自分の生い立ちも、
宋の軍人であったことも、
楊業の息子であったことも・・・。
そんな彼に耶律休哥は石幻果という名を与え、息子のように教え・諭し・調練し、耶律休哥自身に劣らない将へと成長させます。
やがて、遼の大后の娘を娶った石幻果は、耶律休哥と並んで精強な騎馬兵を率いるようになり、宋軍と、石幻果が何者か知らない楊家軍と戦うようになっていきます。
石幻果が戦いを重ねていくにつれ、楊家軍の中には石幻果の仕草や剣技に四郎の面影を感じる人間が出てきます。
真偽を確認するために派遣された四郎の元部下は、過去の記憶が一切無い四郎に斬り捨てられてしまいます。
そのため、六郎達は石幻果が例え四郎だったとしても、戦場で遭遇したら敵として討ち果たすと誓うのでした。
その機会は直ぐにやってきます。
国境を挟んだ戦は規模が拡大し、耶律休哥軍も出動します。
楊家軍を翻弄する石幻果こと四郎は、楊業の忘れ形見である吹毛剣を携えた六郎と相対します。互いの剣技のぶつかり合いは四郎が優り、六郎に深手を負わせます。
六郎は石幻果に止めを刺されると覚悟したのですが、なぜか吹毛剣で頬を切られただけの石幻果は走り去ってしまうのでした。
陣営に戻った石幻果の様子を見て、耶律休哥は彼の身に何が起こったのか察します。
失っていた記憶を取り戻したのだ・・・と。
しかし、まさか石幻果が楊業の息子であるとは思いもよらぬことでした。
前線から引き上げた石幻果・四郎は、一人広漠とした大地で悩み続けます。
兄弟姉妹と殺し合いをしていること、
自分の部下であった男を殺してしまったこと、
家族でもあった楊家軍の兵を戦で殺してしまったこと。
このまま遼に留まるべきか?
楊家軍へ戻るべきなのか?
愛する嫁と息子はどうすべきなのか?
耶律休哥は、石幻果・四郎の悩みは己自身で向き合うしかないと1度は突っぱねるのでしたが、最終的には石幻果・四郎と剣を合わせて瀕死の傷を負わせ、その彼に自らの血を分け与えてこう言うのでした。
『楊業の四郎』は死んだのだ・・・と。
それを聞いた四郎は、楊家軍の四郎は死んだと思い定め、それ以降は遼の将軍として、そして、耶律休哥の息子として、生きることを決意するのでした。
宋と楊家軍の前に立ちはだかる耶律休哥と石幻果・四郎。
宋に対する不信を抱きつつも、宋の先鋒として戦い続ける楊家軍。
彼らの死闘の先にある未来とは?
是非、本書を読んでご確認ください。
『血涙 ~新楊家将~』のおススメ度はいくつ?
オススメ度は75点です。
前作の楊家将と同じく、面白い作品ではあります。
戦いの場面も、輜重(補給)など細部まで考えられていて、読み応えがあります。
ただ、人物の書き込みが浅くて感情移入が強く出来なかった点に不満があり、点が低くなりました。
『血涙 ~新楊家将~』をおススメする人
- 歴史が好きな人
- 特に中国史が好きな人
- 男くさい小説が好きな人
- 激しい戦闘シーンのある本が好きな人
- 北方謙三の小説が好きな人
- 『水滸伝』『楊令伝』にはまった人
- 『楊家将』を読んだ人
『血涙 ~新楊家将~』をおススメしない人
- 『楊家将』を読んでいない人!
絶対に、前作の楊家将は読んでから『血涙』を読みましょう! - 歴史小説には全く興味がない人
- 三国志ですら読んだことがない人
- 漢字名がザクザク出ると苦手な人
- ロマンスやエロが無いと読みたくない人
(若干ロマンスはある)
『血涙 ~新楊家将~』読後の3つの感想
『血涙』を読み終えて感想を聞かれたら、私なら以下の3つを取り上げます。
感じ方は人それぞれだと思いますので、ご参考程度に。
耶律休哥が強すぎる
異常な強さです。
赤い彗星みたいな、反則的な強さです。
余りに強い設定にしすぎて、作者も扱いに困ったような気がします。
その上、あまりにカッコ良すぎる最後です。
『そこまで耶律休哥を贔屓するなんてずるい』
と思わず楊家の人々に代わって声を上げてしまいました。
とにかく書き込みが足りない!
正直、この血涙は失敗作と言いたいです。
その理由は次の3つです。
- 楊家将のように、主人公がしっかりと決まっていない点。
- 登場人物達の誰もが、思い入れを強く感じられるほど描かれていない点。
- 前作・楊家将の潘仁美のごとく、悪役を演じる人も居ない点。
あくまでも自分の好みでの提案ですが、
六郎を絶対的な主人公にしたのであれば・・・、
一族の長としての彼の苦悩や、改めて知る父親・楊業の偉大さが描けたはずです。
さらに六郎を中心に楊一族と四郎のことを書き込めば、
最後の決戦では、名実共に『血涙』になったのではないかと思います。
もしも耶律休哥が主人公だったら・・・、
結構面白いと思います。
- ヒタヒタと忍び寄る老いと病魔への思い。
- 息子のように接してきた石幻果へ思い。
- 自分をいつか追い抜いていくだろう「石幻果」の才能への嫉妬。
かなり書き込めるはずです!
とにかく、この血涙では登場人物を広く浅くしか書き込んでないから、
最後の決戦で感情移入が出来ません!
北方さんの多くの作品では、主要登場人物が死ぬシーンでリアルに泣きます。
通勤列車の中でも目がウルウルして、鼻をゴシゴシして涙を堪えることがあります。
三国志では、思わず涙がポロッと出て、異様な目で周囲の人に見られました。
今回のタイトル『血涙』なんですが、『普通の涙』も出なかった。
それが、本当に残念です。
エピローグいるか?
決戦が終わり、最後にエピローグが用意されています。
それまでの男達の戦いを、遼の女性2人、太后と四郎の嫁が語り合うシーンです。
そして、四郎の息子が宋に残る楊家を訪れるシーンも描かれています。
私が偉そうに書くのも何ですが・・・
この「エピローグは不要」だったと思います。
最後の決戦のシーンで終わった方がスッキリしたと思います
偉そうなことを書いてすいません。