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未破裂脳動脈瘤との闘いをコーギーに癒され暮らしています。鹿島アントラーズの応援と読書に人生の全てを掛けている40代の徒然日記です。

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『紅塵』を読んだ!



紅塵(著:田中芳樹)を読んだ。

「プリズム」、「わたしを離さないで」、と2作続けてイマイチ自分の舌に合わない小説を読んだので、安定の歴史小説に戻ることにしました。

『プリズム』を読んだ! - lands_end’s blog

『わたしを離さないで』を読んだ! - lands_end’s blog

15年ほど前、仕事で中国へ度々出張する機会がありました。その頃、中国の人と話すネタにしようと思って選んだのがこの「紅塵」でした。
その後、多分2~3回は読んでいると思います。
田中芳樹の作風が好きだと言うのもありますが、この本で題材となっている中国史がとても肌に合うため、マイベスト小説の1冊となっています。

ちなみに何度も読んでいますが、記事にするのは今回初めてです。

 

『紅塵』の舞台となっている時代について

960年に趙匡胤によって建国された北宋は、建国初期から北方の遊牧騎馬民族の国・遼に圧迫を受けていました。宋の悲願は建国前から遼に支配されている燕雲十六州の回復でしたが、軍事的には全く太刀打ちが出来ず、澶淵の盟(1004年)を結んで遼との間に和平を実現するしか方法がありませんでした。

1115年、遼の支配下にあった女真族が独立し「金」王朝を建てると、「敵の敵は味方」の法則に乗っ取り、宋は金と手を結んで遼を滅ぼす行動を起こします。
しかし、宋国内で内乱が起きて出遅れた上に、宋の軍隊自体が脆弱で、独力では予定した遼の国土を制圧することが出来ませんでした。そのため、同盟した金の助力を得て、建国以来の悲願であった燕雲十六州の一部を取り戻したのでした。

悲願を達成した宋は、自力で回復した訳でもないの己の力を過信してしまいます。
そこで、今度は遼の残党と手を結んで金を欺き残りの燕雲十六州を取り戻すべき策略を練りますが、この企みは金に露呈して反撃を受けます。

軍事力が貧弱であった宋は金軍によって首都を包囲され、1126年、皇帝以下一族が金軍によって北方に連れ去られてしまうのでした。(靖康の変

唯1人、捕縛となることから脱した皇族が南方へ逃れて南宋を建国します。
中国全土の制圧を狙い、大軍を送り込んできた金の前に立ちはだかったのが、岳飛・韓世忠・張俊・呉兄弟など後に抗金の名将と呼ばれることになる軍人達でした。
彼らの活躍のお陰で、建国間もない南宋は金の南下を食い止めることに成功します。しかし、宰相に就いて政権を握った秦檜は、金との和平案を推し進めます。そして、1142年紹興の和議が成立します。
その最中、和議の条件として金軍が主張した通り、主戦派の岳飛は秦檜の一味によって濡れ衣を着せられて殺害されてしまうのでした。

和議が結ばれてから10数年、韓世忠ら抗金の名将たちの殆どが世を去った1155年、秦檜が亡くなります。
長年権力を牛耳っていた秦檜が亡くなると、皇帝である高宗が権力を取り戻します。

そして・・・物語が始まります。

 

『紅塵』のあらすじ

権力を取り戻した高宗が行ったのが、靖康の変で北方へ連れ去られた北宋の皇帝(高宗)の兄の行方を確認することでした。
皇帝は韓世忠の息子であるが故に、秦檜によって地方に左遷されていた韓子温を中央に呼び戻し、彼に密命を与えます。
「金領内に潜入し、先帝(北宋最後の皇帝)の生死を確認せよ」と。

密命を受けた韓子温は、父である韓世忠と共に抗金の戦いを繰り広げた母・梁紅玉と共に金領内へ潜入します。
金国内に潜入中、盗賊が襲い掛かってきますが、その男は梁紅玉の姿を認めると突然争うのを止め跪き許しを請うのでした。
彼は、かつて「黄天蕩の戦い」で金国の名将・完顔宗弼と激闘を繰り広げた際に、韓世忠と梁紅玉が命を助けた少年・黒蛮竜でした。

彼の援助を得て、子温と梁紅玉は先帝・欽宗が幽閉されている場所へ辿りつきます。
何とか先帝を救い出す方法がないかと子温達は考えていた矢先、先帝は金の皇帝・完顔亮によって惨殺されてしまうのでした。
さらに、完顔亮は南宋討伐に向けて大軍を集め始めたことを知ると、その情報を南宋に伝えるべく帰国することにします。

帰国前に子温は金の皇族の1人と面会します。
彼の名は完顔雍(後の世宗)であり、完顔亮の暴虐に我慢の限界を迎えている皇族の1人でした。
彼は子温に対し「完顔亮が大軍を率いて都を出たら、何かが起きる・・・。」と伝えるのでした。
口約束ではありましたが、南宋が戦に臨むに当たって重要な情報を手にした子温は、母と共に帰国するのでした。

そしてついに、完顔亮は60万の大軍を率いて南下を始めます。しかし、彼自身の指揮の拙さと部下への横暴な態度が仇となり、南宋軍が決戦を挑む頃には既に制御不能になりつつありました。

金から帰国した子温は、参謀の1人として南宋軍を率いることになります。
兵力では叶わぬ南宋軍でしたが、士気は高く、また水上での戦いは金軍兵士よりも遥かに優っていました。

建国してから金軍の侵略に悩まされ続けた南宋は、子温達の活躍もあり、金軍に長江を渡らせる事なく撃退することに成功するのでした。

 

『紅塵』のおススメ度はいくつ?

おススメ度は80点です!

歴史が好きな人には是非読んで欲しいです。
フィクション性が強い小説ですが、中国史を知る上でとても貴重な一冊だと思います。

紅塵 (ノン・ポシェット)

紅塵 (ノン・ポシェット)

 

 

『紅塵』をおススメする人

  • 歴史小説が好きな方
  • 歴史は好きだけど中国史は食わず嫌いな人
  • 三国志以外の中国史に触れる機会がなかった人

中国史をメインで勉強している人も楽しめると思います。

 

『紅塵』をおススメしない人

  • とにかく歴史が嫌いな人

それ以外の人は大丈夫!
この小説は、歴史を知っていればより楽しめると思いますが、仮にまったく時代背景を知らなくても登場人物達の会話だけで十分に楽しめる1冊です。

 

『紅塵』の読書感想について

読み終えて、心に残った点をいくつかまとめてみます。

 

梁紅玉の人生訓が深すぎる

本書89ページ、梁紅玉の人生訓が本当に深すぎます。

梁紅玉は、静かな日々のなかでひとつの想いをいだくようになった。
生きるということは、自分以外の人間が死んでいくのを見送ることなのだ、と。

15年前に初めてこの本を読んでから何度か読んでますが、今まではこの台詞に対して特に特別な感情を抱きませんでした。
ですが・・・

  • 40も半ばになった
  • 昨年脳の手術を受けて死を身近に感じた
  • 祖母たち親しき人を見送った

だからこそ、梁紅玉の台詞が心に響きました。

読書とは、読み手の感情や経験値によって印象が大きく異なると思います。
感動した話や楽しかった話が、ごく普通の話になることもあるし、理解出来なかった難しい話が、私事として理解出来る事もあります。

それが楽しいから、私は一度読んだ本の再読を行っています。

 

中国人に不思議がられる日本人の三国志好き

歴史好きの方は、きっと中国の方と話をすると三国志ネタを出すと思います。
そして多くの人が同じ質問を受けているのではないでしょうか?
「どーして日本人はそんなに三国志が好きなの?」
または
「どーして日本人はそんなに三国時代の事だけ詳しいの?」

これは冷静に考えてみれば至極当たり前の質問です。
日本史で言うならば、外国人が南北朝時代のそれぞれの武将の名前をとても詳しく知っていたら・・・やはり違和感を感じると思います。

日本人の心にどうしてこれほど三国志演義の話が嵌るのか?
日本人の国民感情の特徴でもある「判官びいき」が原因の1つであることには間違いないと思います。追い詰められていく義経とその一行に感情移入する日本人が多いのがまさにソレに当たると思います。

  • 追い詰められていく劉備とその仲間のいる国・蜀。
  • 勢力を増していく曹操とその仲間がいる国・魏。

確かに日本人が肩入れしやすい構図なのだと思います。

一方、なぜ中国史の他の時代のおいては同様の現象が起きないのでしょうか?
この点は、自分自身にとっても1つの疑問になっています。

  • 水滸伝がイマイチ人気を博さないのは何故か?
  • 中国では国民的英雄の岳飛が意外と知られていないのは何故か?

そのあたりを突き詰めていけば、日本人と中国人の物の感じ方や考え方の違いがハッキリするのかな?と思います。

 

女傑抜きには中国史は語れない

『紅塵』主人公は韓子温ですが、影の主人公は彼の母である梁紅玉です。

梁紅玉・・・夫の韓世忠に優るとも劣らない武将だったそうです。
実際、息子の子温と旅をしている時、母の梁紅玉が各地の武将や役人、果ては敵国人にまで敬意を払われている様子が描かれています。
息子としてはたまんないだろうなぁ、こんな母ちゃんがいたら。

梁紅玉以外にも中国の歴史は「もの凄い」女傑たちによって歴史が彩られています。

例えば、以前紹介した『風よ、万里を翔けよ』の主人公であった「花木蘭(隋・唐時代)」など有名です。ただし、彼女は実在したと思いますが、彼女の伝記の内容はどこまで真実の話か「???」です。

『風よ、万里を翔けよ』を読んだ! - lands_end’s blog


歴史上、正式に列伝が存在するのは「秦良玉(明時代)」です。
彼女は文武に優れていた名将でした。男装して軍を率いて満州族の侵略を退け、反乱軍を排除し、勝利を重ねました。正史に列伝が存在する唯1人の女武将です。

実在が確認され、かつ活躍も判っていますが列伝がない女武将だと「平陽公主(唐時代)」がお気に入りです。
彼女は唐の建国者李淵の娘です。父が建国時に軍を上げた際に、兵を集めて一軍を率いて活躍し(娘子軍)、李淵の天下取りに貢献しました。

日本人が好きな三国時代にも女傑はいました。
三国志では呂布を惑わせた貂蝉が有名ですが、「王異」という女武将がいました。彼女は魏(曹操)側の人間で、なんとあの馬超と戦ったことがあります。

他にも数多く存在するので、いつか中国女傑リストでも作ってみようと考えています。

 

中国史に出てくる悪役は必ずしも悪人とはいえない?

中国史の本を読むと、必ず絶対悪の象徴とも言える人物がいます。

  • 三国志なら董卓や曹操
  • 水滸伝なら高俅
  • 岳飛伝では秦檜

気持ち良い位に悪役に徹してくれますが、ふと思ったのです。
悪役だけど、本当に悪人か?
確かに彼らは権力を牛耳ったり、財を集めたり、女を囲ったり、栄華を極めたりしています。
ですが・・・
彼らは国を崩壊させただろうか?
少なくとも秦檜は金で国を他国に売ったりはしていないはずだ
そう考えると、彼らは本当に悪人なのか判らなくなってしまいます。

中国史における悪人の定義って何だろう?
今度、中国に行った時には中国人とこのテーマで話をしてみたいです。

 

 

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