東京タワー(著:江國香織)を読んだ!
春、心がフワフワしてくる時期になると江國さんの本を読みたくなります。
真夏はあまり読みたくなくない。
深々と冷える真冬の夜も読みたくなります。
何故かは自分でも良く判りません。
本棚をあさってチョイスしたのが、この『東京タワー』でした。
ほぼ10年ぶりの再読になります。
読み終えたので、感想をまとめてみます。
『東京タワー』のあらすじ
女性雑誌の編集長をやっている母親と2人で暮らしている透。ある日、母が家に仕事仲間として詩史を連れてきました。
最初は年の離れた友人として人妻である詩史と出掛けるようになる透。
2人が男女の関係になるまでそう長い時間は掛かりませんでした。
一緒にお出掛けしたあと詩史の自宅にお邪魔した透を、
詩史は夫婦の寝室の扉を開け声を掛けます。
『どうぞ』と・・・。
透の唯一と言える友人・耕二。彼らは高校時代から互いをある意味『親友』として意識しながら友人関係を続けていました。
親が医師で裕福な家庭で育った耕二ですが、ちょっと変わった性癖を抱えていました。
『熟女好き』
初まりは高校時代の同級生の母親でした。
その恋愛が同級生の女の子を巻き込む修羅場となったため、彼は1つの誓いを心に立てます。
『子供のいる女には手を出さない』
大学生になった耕二は、同年代の由利と恋人関係を保ちつつ、年上の人妻・喜美子とも逢瀬を重ねていきます。
詩史と透の関係は、徐々に抜き差しならぬ状況へと発展させていきます。
情熱的に詩史に迫る透の思いを嬉しく思いつつ、詩史は旦那との生活を断ち切ることは出来ません。
そのため、努めて冷静に振舞いつつ、
透に対し『一緒に生きることは出来ても生活は出来ない』と言うのでした。
詩史の思いを聞いた透は、ある人生の決断をします。
耕二は、自分が思い描く年上らしい振る舞いをしない喜美子に手を焼き始めます。
しかし、『そろそろ終りにしよう』と思いつつ、その言葉を口に出せないうちに、喜美子の方からフラれてしまいます。
そして恋人・由利にも、部屋に別の女の子を同居させたことにより、別れを告げられてしまいます。
何もかも上手くいかない耕二でしたが、バイト先のプールバーにいつも年上の男と一緒にくる女の子に目を付けます。
今はダメだけど、もう少し元気になったら、彼女をあの年上の男から・・・。
『東京タワー』のおススメ度はいくつ
おススメ度は75点です。
10年前の初読時の印象はもっと高かったです。
でも、今回はちょっと違う印象でした。
『東京タワー』をおススメする人
- 江國作品が好きな人
- 江國作品が苦手な人(この本はテイストが違うので)
- 誰かを好きになりたい人
- 恋愛に溺れた記憶を優しい気持ちで思い出せる人
- 不倫に憧れる人
この本は江國さんの作品としては珍しく男目線で語られています。
もっとも、男と言っても、少年~青年期の男ではありますが・・・。
この目線の違いは、今まで江國作品は苦手と感じていた人を新たに呼び込む切っ掛けになるのかも知れません。
『東京タワー』をおススメしない人
- とにかく不倫は許せない人
- 人を好きになる事が怖い人
- 恋愛恐怖症の人
- 男目線での恋愛物を読みたくない人
とにかく、昨今世間を騒がせているような『不倫』が許せないという方は、読んでいて不快になるかも知れません。
それと、理不尽なまでの『落ちる恋愛』が怖い方も読まない方がいいかな。
『東京タワー』を10年ぶりに再読して感じたこと
2001年に単行本が、2006年に文庫本が発表されています。
正確には覚えていませんが、文庫本が発表された2006年頃に読んだと記憶しています。
あれから約10年。
読書中、そして読後の感想が、初めて読んだ時と大きく変わっていることが、かなりの驚きでもあり、嬉しくもあり、でした。
30代の10年は人生にとって大きかった
私事ですが・・・
30代前半から40代前半の10年は、私の人生にとって大きな10年でした。
- 恋愛してフラレ、また恋愛してフラレ
- 昇格して降格し、そしてまた昇格
- 甥っ子が生まれ、血の繋がりというモノを実感
- 幼年期の友人が若くして突然死 人生の不条理を感じた
- 東日本大震災を経験 どうにもならない自然の威力を感じた
- 母方の祖母が逝去し、祖父母4人全員と別れ 人生の最後を意識
- それまでと何かが違う恋愛をし、結婚しようと思う
- 結婚を数少ない友人達に祝ってもらう 人は人の中で生きることを実感
- 未破裂脳動脈瘤が見つかり死の恐怖に晒される日々
- 開頭クリッピング手術を受けて穏やかな日々へ生還
これらの経験が、
東京タワーに描かれている世界を、
今となってはあまり興味をそそられない世界にしてしまった。
そんな気がします。
最初に読んだ30代前半の頃は『いいなぁ、こんな恋愛。』
と、透や耕二と同じ目線で読んでいました。
でも、40代になって読んだ今は、
どちらかと言うと、喜美子の気持ちが一番わかる気がしました。
- 人生の残り時間を意識してしまう
- 若さの前でたじろぎ、時に怒りを感じてしまう
- 中年の苦しみを理解してしまう
そんな自分を発見した気がします。
やっぱり再読の癖は止められない!
10年ぶりに読んだ『東京タワー』。
その評価はガラッと変わりました。
10年と言う月日の経験が、これだけ読み手の感想を変える。
私はこの感覚が堪らなく好きです。
変わった結果が良い物なのか、それとも悪い物なのか、それは判りません。
でも、すくなくとも、何もなく10年が過ぎたのではない事を実感できるから・・・。
だから、私は本の再読、再々読をしてしまうのです。