完全なる首長竜の日(乾緑郎)を読んだ!
先日、地上波で放映していた『~リアル~完全なる首長竜の日』の映画を録画して鑑賞しました。原作の小説はいったい『どんなモノ』なのか気になり、購入して読んでみました。
『このミステリーがすごい』で大賞に輝いた作品との事で、期待しながら読んだ『完全なる首長竜の日』の感想文をまとめてみました。
『完全なる首長竜の日』の粗筋
- 40代独身女子!
- まあまあ売れっ子漫画家!
- 男っ気なし!
- 珍しい姓を持つ和(かず)淳美が主人公
それなりに名の知れた漫画家であったが、近年は仕事が減っていた。
そこで、デビュー以来の連載に作品に本腰を入れようとしたところ、なんと子供のように大切にしていたその連載も終了(事実上の打ち切り)を告げられてしまった。
両親は既になく、身寄りといえば、自殺を図った後にとある特殊な病院で昏睡状態が続く弟・浩市だけであった。
敦美は、浩市と「SCインターフェース」という特殊な装置を使ってコミュニケートする、最新医療技術「センシング」を介して、彼の深層心理に入り込み、なぜ彼が死を選んだのかその真相を探りだすべく対話を続けているのだが、対話の最後にいつも彼は自殺を繰り返すのであった。
浩市の記憶を探るうちに敦美は、子供の頃の自分達の記憶に触れることになる。思い出したくなかった祖父との事や、母方の田舎であった南洋諸島を訪れた際に、家族で磯遊びをしている時に起きた事など、『リアル』に体感していく。
「センシング」で体験したことが夢であったり、「センシング」で出会った人と現実世界で出会ったり、少しずつ、少しずつ、『浩市の深層心理の世界』と『敦美の現実世界』の境界線がぼやけていくことになる。
やがて、敦美はひとつの結論に辿り着きます。
浩市の深層心理の世界と思っていた世界が、実は敦美の・・・。
『完全なる首長竜の日』の最大のテーマは何だろう?
読み終えてしばらく経ちますが、実は未だに悩んでいます。
この小説が描きたかったテーマは何なのか?と。
とりあえず、3つのテーマを上げてみる。
- 浩一の自殺原因の追及?
- センシングという技術を使い、夢と現実の曖昧さに踏み込むこと?
- 最後の落ちが全てである。
まず1だが、浩市の自殺原因の追及が長い。
長いというか回りくどい説明と言うか…、読んでるうちに何が何だか訳がわからなくなってくる。
多分、作者にとって自殺原因はどうでもよくて、判らない原因をアレコレ曖昧にしながら何度も書き重ねることで、読み手をまやかしの世界へ連れていくのが狙いなのではないかと思います。
よって、1は違うかな…と。
じゃあ2ですが、これまた回りくどい。
センシングの技術的な話が繰返しされていて、読み手を惑わします。
私みたいな、この手の技術系の話が苦手な人間には、正直読むのがやっとで、理解など出来ません。
夢と現実の狭間どころか、行間に挟まって悶絶ですよ…
それならば最後の3か?
と言うと…う~ん。て考えてしまいます。
最後の落ちは、多分、重要なんだろうと思います。
でも、ひょっとすると、『作者は重要視してない』のではないかと思う気がするのです。
なぜなら、あまりにも定番な落ちというか、多分、ほとんどの人が読んでいる途中で落ちが見えると思うからです。
(ネタバレなので脚注にします。読んでない方は見ない方が・・・。)
*1
となると、最後の落ちはそれほど重要ではない?と思うわけです。
じゃあ何がテーマなのか?
本の中でも何度か記述されてましたが、
『夢と現実の境界線を曖昧にすること』ではないかと考えてます。
これを、こんな風に言い換えることも出来るように思うのです。
『浩市の夢と敦美の夢とどっちが現実なのかを曖昧にして読者を惑わす』
どうでしょうか?
実際、私は途中から何がなんだか判らなくなってきて、何度も読み返さないといけないほど、混乱していました。
私は『この手』のミステリーは苦手かも…
読んでいて感じたのですが、私は『この手』のミステリーは苦手なのかもしれません。
この手とは『理科系的』な話が組み込まれているミステリーです。
同じミステリーでも、人間関係や心理が謎の軸になっている『人文系的』な本は、先へ先へとワクワクしながら読むのが楽しくなるほどその世界にハマるのです。
しかし、今回のような理解するのに時間を要する『特殊な技術等』が話に出てくると、頭が悪いのか…スムーズに先へ進めなくなってしまうのです。
そして、本の世界に没頭出来なくなり、書いてあることを理解しようとすればするほど現実世界に引き戻されてしまい、その結果、読み進めるのに苦痛を伴うようになるのです。
以前読んだ『ジェノサイド』もそうでした。
医療系の小難しい話に、本の世界ののめり込むのを遮られて楽しめなかった思い出があります…。
完全なる首長竜の日のオススメ度はいくつ?
オススメ度は65点です。
正直、なぜに『このミス』の選考人の方々が絶賛したのかが判らない。
確かに、描写の凄さは判ります。
南洋諸島の描写は、読みながら南洋の島に自分を連れて行ってくれました。
蒸し暑くジメジメとした空気、顔に纏わり付く生温い空気、蒸せるような植物と土の香り、屋久島や西表島を思い出しました。
でも、それ以上の凄さは・・・。
すいません、本当に私にはよく判りませんでした。
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最後にタイトルについて言わせて
この小説のタイトルは『完全なる首長竜の日』です。
『首長竜』って何で?
確かに小説の中には首長竜のオブジェは出てきますよ。
でも、なぜに『首長竜』なの?
子供時代の思い返したくない思い出の中にも、『首長竜』が出てきます。
タイトルが突飛ではダメと言うことはない
と思います。
でも、
タイトルはその本の『何かを現す大切な鍵』だ
と思うのです。
それだけに、どうしても気になるのです。
「なぜ、首長竜なの?」
「なぜ、完全なるなの?」
あぁ、こんな風に考えるから、この手のミステリーは合わないのでしょうか・・・。
映画版 リアル~完全なる首長竜の日~ について
小説を読んだ切っ掛けが映画版を観たことなので、ちょっとだけ触れたいと思います。
まず、映画版は小説を元にして作られたオリジナルだということです。
もっとハッキリ言えば、元にはしていますが、全くの別物と言ってもいいと私は思います。
なぜなら、話しの求める先(テーマ)が違うのだから。
映画版のテーマ
小説と違い、とてもシンプルです。
どれだけ、最後のドンデン返し(この最後の落ちの部分は小説とほぼ同じ)で、観客を『エーッ!』って言わせるかであって、小説版で作者があれほど苦労に苦労を重ねて曖昧にした『夢と現実の境界線』の扱いが、とてつもなく軽いです。
ああ、それから、首長竜がちゃんと動いてます(笑)
綾瀬はるかは好きだけど、この主役にはどうなの???
この記事の粗筋の部分でかいた主役の特徴を思い出してください。
- 40代独身女子
- まあまあ売れっ子漫画家
- 男っ気なし
更に、小説版を読んでいくと判るのですが、不倫・妊娠・流産によって、彼女が心身に受けた傷が、敦美の自殺原因でした。
そのちょっと陰のある、敢えて言うならば、峠を越え、人生を緩やかに下り始めた時期の女性を演じるには、本当に綾瀬はるかさんで良かったのでしょうか?どう考えても、彼女のもってる雰囲気には合わない気がします。
まあ、映画版では上に書いたような『人生の陰の部分』は殆ど描かれていないので、あまり問題ないのかも知れませんが。
ですが、小説版の良さはその『和敦美の陰のある人生』があるからと言っても言い過ぎではないと思います。
それがあったからこそ、『夢と現実の世界の境界線』を曖昧にすることに成功し、多くの読者に謎を提供したのに、それを捨ててしまっては・・・。
まさかとは思いますが、綾瀬はるかさんを主役にしてしまった(またはしたかった)ので、監督の黒沢清さんは脚本をオリジナルに変えざるを得なかったのでしょうか?
だとしたら、小説を書いた作者にとっても、小説のファンだった人にとっても、そして綾瀬さんにとっても、とても残念なことじゃないか?
と私は思います。
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*1:敦美がセンシングで入り込んでいる世界は浩市の夢ではなく、実は敦美の夢の中の話である。つまり、自殺をして眠り続けているのは、敦美の方であって、現実世界として描かれているのは、敦美の深層心理の描写である。