lands_end’s blog

未破裂脳動脈瘤との闘いをコーギーに癒され暮らしています。鹿島アントラーズの応援と読書に人生の全てを掛けている40代の徒然日記です。

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『春から夏、やがて冬』を読んだ!



春から夏、やがて冬(著:歌野晶午)を読んだ!

歌野さんの作品は、どうしても『葉桜の季節に~』の衝撃が強すぎて、読む前から読み手が作品のハードルを上げてしまうために、中々満足感を得られず、読後の評価も辛いものに成りがちです。
まあ、あれだけの名作を作ってしまった宿命として、歌野さんには我慢して頂くしかありません。

今回の作品は、その葉桜~のあとに作られた作品です。
葉桜で得た評価に惑わされること無く、どんな作品を書かれたのか、期待しながら手にしました。

読後の感想をまとめます。
尚、ミステリーなのでなるべくネタばらしにならないように気を付けてはいますが、気になる人はご覧にならない方が良いかも知れません。

 

『春から夏、やがて冬』のあらすじ

スーパーの保安員をしている平田は、捕まえた万引き犯必ず警察に突き出していた。
しかし、末永まゆみだけは、反省しているとして「警察に突き出すことなく」放免したことから物語りは始まります。

平田に対し、恩義とともに、興味を感じたまゆみは、彼に近寄っていきます。

平田が公園で昼飯を食べている時に現れたり、
仕事帰りに声を掛けたり、
一方の平田自身は、女性としてのまゆみには全く興味はなく、むしろ同僚達にまゆみと一緒に居るところを見られて噂されたり、誤解されたりして迷惑を感じていたのですが、どうしても強くまゆみを拒否することが出来ずにいました。

 

平田には昭和60年生まれの娘がいました。

妻と娘と幸せに暮らしていた生活は、高校生になった娘が轢き逃げで殺されたことで暗転します。
娘の遺体は、携帯を片手にし、ヘッドホンで耳を塞いだ状態で発見されました。
そのことで、事故の原因は娘にもあると暗に警察に指摘され、その見解に理不尽さを感じつつも、平田自身がその危険性を感じていながらも、生前、娘に強く注意出来なかった自分を責めるようになります。

一人娘を失った妻は、当初は気力を喪った様子であったが、やがて懸賞をかけて犯人探しのビラ配りをするなど生きる気力を取り戻していきます。
しかし、轢き逃げの時効5年(作品中の時代は)が過ぎると、生きる拠り所を失ったのか心のバランスを崩し始めていきます。

そして、ある番組を観ていた平田の一言が、彼ら夫婦を完全に壊してしまいます。
そのシーンは、自転車に乗っていた女の子が車に轢かれる寸前で止り、危うい所で事故を逃れるのですが、それを見た平田は「春夏も止ってくれれば・・・」と呟く。
その途端、それまで静かにしていた妻は「あなたはあの娘が悪いと思っているのか?」と詰め寄り、平田の発言をなじるのであった。

怒りを露にする妻を見ながら、ようやく平田は1つの事に気付くのであった。
「自分同様、妻もこの数年間ずっと自分自身を責め続けていたのだ」と。
しかし、気付いた時には既に手遅れであり、心身のバランスの崩したは、ある日、自宅の風呂場で自らの命を絶ってしまうのであった。

 

妻と娘を失った平田は、生きる気力を失い、首都圏の職場から地方の店舗へ異動させてもらい、静かに余生を過ごしていたのであった。
そんな彼の前に現れたのが、万引き犯の末永まゆみであったのだ。
そして彼女は、昭和60年生まれでした。

 

末永まゆみは、どうしようもない両親の元に生まれ、幼くして親戚に預けられます。
彼女は居心地の悪さから、中学を終えるとその家を飛び出します。

飛び出して日々の暮らしにも困り始めた頃、優しく声を掛けて助けてくれた男と同棲を始めるのであった。しかし、暫くするとその男はまゆみに暴力を振るうようになり、更にまみゆの稼ぎをピン撥ねするようになるのであった。

男に暴力を振るわれて家を追い出され、数日、街を彷徨っていたときに、空腹に耐えかねて万引きをしたのが、平田の勤めていたスーバーであった。

 

地方に引っ込み、残りの人生を静かに暮らしていた平田であったが、
彼の人生は神様のイタズラによって更に翻弄されることになります。

数年ぶりに受けた健康診断で、肺癌が見つかるのです。

見つかった時には既にかなり進行しており、完治は難しい状況でした。
そのことを知った平田は、医師に治療・手術を勧められてもそれを拒み、娘や妻の待つあの世へ行くことを切望するのであった。
彼がこの世に残した未練は無く、ただ1つあるとすれば、彼の手元に残る娘や妻の保険金を有意義に役立てたいと思うだけでした。
そのため、唯一の身内とも言える姪っ子に定期的に会って、彼女の求める物を買い与えることに生きる意義を感じている彼であった。

そして、その屈折した思いを、まゆみに対しても見せ始めるのであった。

  • 万引きを見逃してやり
  • 空腹な様子であれば食べ物を与え
  • 病院の治療費が無ければ立て替えてやり

会社で噂になり立場が悪くなろうとも、平田の彼女への姿勢は変わることはありませんでした。

 

普通なら、人生において絡み合うことなど無い2人でしたが、
少しずつ、互いの事情を話すようになっていきます。

平田は、

  • まゆみと同い年の娘がいたこと
  • 高校生の時に轢き逃げで殺されたこと
  • 娘の死に責任を感じていること
  • 結果的に妻を自殺に追い込んでしまったこと
  • 肺癌が見つかったこと
  • 治療をする気はないこと
  • なぜなら自分の生き甲斐とは娘と妻がいる世界に行くことであること

まゆみは、

  • 悲惨な生い立ちであること
  • 家出して出会った男と一緒に住んでいること
  • 日々暴力を振るわれていること
  • ホステスの仕事をさせられその稼ぎを奪われていたこと
  • それでも彼の元を離れられないこと
  • 将来に明るい希望をもてないこと

ある意味無関係な相手だからこそ、2人は互いに溜め込んでいた様々な思いを吐き出していきます。

 

やがて、平田の身に1つの事件が降りかかります。

まゆみの情夫が、平田がまゆみを家に引き込み乱暴したと恐喝してきたのである。

普通の勤め人であれば、世間体を恐れ、脅されるがままに支払いをしたのであろうが、
既に「生への執着」を失っていた平田は男の脅しを意に介すことはありませんでした。
100万渡すと話してその場を収め、あとはのらりくらりと交わすのでした。

 

平田から金を上手く取れない苛立ちで暴力を振るう男からまゆみを助けるために、平田は1つの提案をまゆみにします。
500万を援助するので、男と縁を切って自立しろ・・・と。

一方のまゆみは、援助を続けてくれる平田の心を知るほどに、
「生を諦めた」平田に、「生に執着」しろと働きかけ
ます。
生きようとすることが、娘と妻への罪滅ぼしなのではないかと・・・。

そしてついに、まゆみは頑なに生きることを拒む平田に対し、ある計画を仕掛けるのでした。

平田に500万の援助を受けることを正式にお願いした日、まゆみはまたしても平田に治療を受けることを迫ります。
しかし、平田がその思いを拒否し続けると、怒ったふりをして店を出てしまいます。
ただし、店を飛び出した時、わざと携帯の入ったカバンを忘れて来たのであった。

 

ここから先は、書きません!
まゆみの計画とは何なのか?
まゆみの人生はどうなるのか?
平田の人生はどうなるのか?

本を手にとって確かめてください!

 

『春から夏、やがて冬』のおススメ度はいくつ?

おススメ度は・・・75点です!

採点はとても難しいです。
読み手の環境や状況によっては、80点、90点になるかも知れません。
でも、40点、50点という評価になる可能性もあります。

ちなみに私の環境ですが・・・

  • 40代の男、既婚、子供なし
  • 昨年、大きな病で「死」と「生」を良く考えた

こんな状況の私にとっては、
「共感する部分アリ、共感出来ない部分アリ」
評価が難しい作品でした。

 

春から夏、やがて冬 (文春文庫)

春から夏、やがて冬 (文春文庫)

  • 作者:歌野 晶午
  • 発売日: 2017/12/05
  • メディア: Kindle版
 

  

『春から夏、やがて冬』おススメする人

  • ミステリーが好きな人
  • 歌野さんの作品が好きな人
  • 理不尽な世界を受け入れられる人

 

『春から夏、やがて冬』おススメしない人

  • ミステリーが嫌いな人
  • ノンビリした空気が嫌いな人
  • DVなど暴力に拒否反応がある人

 

『春から夏、やがて冬』読後の個人的感想

読後の感想は、この一言に尽きます。

「言葉に出来ません」

感動したともいえます
驚いたともいえます
気分が悪いともいえます

とにかく、言葉にしがたい読後感です。

↓ここから先は真相に迫る話になるので、未読の人はお気を付けください。

 

衝撃の展開と衝撃のラスト

500万をまゆみに投資すると決まってから、物語は一気に流れ始めます。

読みながら、私的にはまゆみの男が実は轢き逃げ犯?・・・って推理してました。
事実は、「少し」違いましたが、予測の方向に間違いはありませんでした。

もっとも、私の推理通りで終わりなら、ダメ本扱いだったと思います。

 

作者は、最後の最後で壮絶な「ちゃぶ台返し」を仕掛けてきます。
本当に、息が止ると思います。

最後の章は、途中で止ることは不可能です。
最後まで一気に読める時間が取れる時に、読むことをおススメします。

ここでは、最後の「ちゃぶ台返し」については言及しません。

 

読後、救いようの無い悲しみに包まれる

とてつもなく悲しいです。
読み終えて、これほど悲しい思いをしたのは久々です。

せつないとか、くやしいとか、ではありません。
ただシンプルに「悲しい」のです。
救いようの無いラストの事実に、涙すら出ませんでした。

 

  • 一緒に居たいと思う人がいること
  • 生きる楽しみがあるということ

それがどんなに平凡でも、「あることが幸せ」なんだと思いました。

 

そして、人に対する無償の行為
まゆみが平田のために決意した行為は、頭が下がるし、同時に怖くも感じます。

  • 人はそこまで出来るものなのか?
  • 赤の他人に自分の人生を捧げるなんて、どんな心境で出来るの?

 

この2人「もう少し何とかならなかったの?」
どうしようもないのかも知れない、そう思えば思うほど、胸が苦しい。

 

おまけ

歌野さんがこの作品関してインタビューを受けています。
読んで無い人は、先に読まないほうが良いかも知れません!

 

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