海賊とよばれた男(著:百田 尚樹)を読んだ!
お笑い小説(パパとムスメの7日間)、ファンタジー(ICO-霧の城-)と、少々柔らかい本を続けて本だので、今度は少し固めの本を読みたいと思って手にしたのがこの本でした。
この本、「小説」と言うよりも「伝記」ですね。
人物名や会社名は変えてあるけど、ほぼ完全に1人の伝説的な経営者の「伝記」だと言うことを後で知りました。
文庫(上下巻)を読み終えましたので読後の感想をまとめます。
2分で読める『海賊とよばれた男』のあらすじ
明治から昭和にかけて、日本人としての誇りを常に胸に抱きながら、社員のため、日本人のため、日本国のため、世界中で商売を展開した1人の男の伝記小説である。
- 戦前・戦中に海外に築いた地盤を敗戦で失っても不屈の精神で耐え抜き
- ゼロからの出発でも社員と日本人の底力を信じて前へ突き進み
- ライバル達の包囲網を圧倒的な行動力と豊かな発想で食い破り
死の間際まで日本の戦後復興を誰よりも担ってきた男の話である
10分はかかる『海賊とよばれた男』のあらすじ
戦前から戦中、そして戦後復興期にかけて、日本人としての誇りを胸に抱きつつ、社員のため、同胞・日本人のため、さらには日本国のため、繁栄には石油が必ず必要になるという信念の元に、国内のみならず世界中で商売を展開した1人の男の伝記小説です。
第1章 朱夏 (昭和20~22年)
(中国の五行思想において赤色を夏にたとえることに由来)
(人生の最盛期、30~50代頃を意味すると思われる)
第2次世界大戦の敗戦により全ての海外領土を失った日本と同じく、国岡鐵造が興した国岡商会もまた、朝鮮や満州、中国大陸などに持っていた全ての資産を失うことになります。
敗戦後、各地から続々と引き上げてくる店員(国岡商会では社員ではなく店員)を養う資産はなく、他の企業と同じく店員を減らす以外に生き残れない状況でした。
しかし、リストラを進言する幹部たちに対して、店主(国岡商会では社長ではなく店主)が放った一言が、国岡商会の未来を決めます。
「馘首(かくしゅ=くび)はならん!」
この一言を切っ掛けに、国岡商会の全店員は仕事探しに奔走します。
漁船を借りて漁業をしたり、壊れたラジオの修理をしたり、日本海軍の遺したタンクに潜り底に残るオイル攫いをしたり・・・必死の思いで国岡商会を支えるのでした。
第2章 青春 (明治18年~昭和20年)
(中国の五行思想において青色を春にたとえることに由来)
(人生で身を立てる時期 30代頃までをさすと思われる)
明治18年に福岡県宗像市赤間生まれた鐵造は、苦労して勉学を続け、神戸高商へ進学します。卒業後、いずれは自分で事業を興すつもりであった鐵造は、学友が大企業へ入社する中で小さな個人経営の商会に入社します。
そこで商売のいろはを学んだ鐵造は、神戸で知り合った資産家・日田の援助を受けて独立を果たします。
生まれ故郷の福岡に戻って国岡商会を立ち上げますが、思うように事業は上手く行きません。度重なる危機を、日田の援助を受けて何とか凌いでいる状況でした。
やがて、鐵造はこれからの産業に欠かせないと以前から目を付けていた油を商品とすることで、国岡商会を飛躍させることに成功します。
漁船への灯油の販売から始まり、ついには当時東洋一と言われたマンモス企業の満鉄に鉄道車軸用のオイルを納品するまでに至るのでした。
第3章 白秋 (昭和22年~昭和28年)
(中国の五行思想において白を秋にたとえることに由来)
(人生の円熟期 50代後半~60代後半頃をさすと思われる)
戦後、全ての海外資産を失った国岡商会は、1人の店員を首にすることなく、様々な事業に積極的に手を出して必死に生き残りを図っていました。
しかし、一商会が頑張ったところで経済が立ち直るはずがなく、国全体の産業が復興しないことにはどうにもならないと鐵造は感じていました。
そのためには、石油の輸入を解禁させるしかないと結論付けた鐵造は、GHQや日本政府に懸命に働きかけますが、そう簡単に輸入禁止が解かれることはありませんでした。
ジリ貧に追い込まれていく日本の産業を救ったのが、朝鮮戦争による特需でした。
それを契機に国岡商会は立ち直り、石油を自力で輸入する決意を新たにします。
アメリカ系の石油会社(メジャー)に日本の石油会社が次々と買収されていく中で、国岡商会だけは民族系企業として戦い続けます。
メジャーの目を掻い潜ってアメリカから石油を買い付けますが、メジャーに知られると取引停止となるイタチごっことなり、またしても国岡商会はジリ貧となってしまいます。
この苦しい状況を打破したのが、アメリカの邪魔が入らない場所・イランからの石油輸入でした。当時、イギリス政府と揉めていたイランからの輸入には、政府も良い顔をしませんでしたが、国のため、日本人のためを第一に考える鐵造は意に介しません。
次々と石油をイランからタンカーで運びこみますが、またしてもアメリカの横槍が入ります。アメリカによってイランの政権が覆され、親米政権が誕生するのです。
これにより、再び石油の輸入が難しくなった鐵造は、さらに手を打ちます。
敵の本丸とも言えるアメリカに乗り込み、イラン以外の中東で油田開発を進めていたメジャーの一つと契約を結ぶことに成功します。
さらに、鐵造は日本国内に製油所を作ります。
なぜなら、製油所を作ることで原油を直接仕入れることが出来る様になり、必要に応じて必要な油を消費者に提供できるようになるからです。
次々と巨大なタンカーを建造し、製油所を建て、国岡商会の存在は日本産業界において無くてはならない存在となっていくのでした。
第4章 玄冬 (昭和28年~昭和49年)
(中国の五行思想において黒を冬にたとえることに由来。黒=玄とのこと)
(人生の終盤 60代後半~と思われます)
巨大化した国岡商会に畏怖を感じた業界や政府によって、度々嫌がらせを受けつつも、その都度店主鐵造の知恵と胆力で跳ね返すことに成功します。
国岡商会が安定すると、ついに鐵造は引退します。
鐵造が引退後に起きた石油ショックも、2代目、3代目が上手く手綱をさばき、21世紀へ続く企業へ発展していくのでした。
一代の英傑・鐵造の最後については、ぜひ本書をお読みください。
『海賊とよばれた男』のおススメ度はいくつ?
おススメ度は80点!
大変面白かったです。
そして、大変勉強になりました。
自分が全く知らなかったことを知るという事が、私にとっては本を読むという行為の楽しみの一つなので良かったです。
戦前から戦中、そして戦後の産業(主に石油ですが)の勃興について、簡単にですが学ぶことが出来ました。
『海賊とよばれた男』をおススメする人
- 立志伝的な話が好きな人
- 石油産業に関わりのある人
- 大学生、もしくは40歳前後の人
最後のおススメ枠ですが、読んでいて何となく感じたのです。
社会に出る前の学生か、もしくは社会に出てある程度波に揉まれた人が読むと、人生の岐路に役立ちそうだな・・・と。
何となく私の勝手な思いですが・・・。
『海賊とよばれた男』をおススメしない人
- 立志伝的な話が嫌いな人
- とにかく歴史的な話が嫌いな人
この本が合わない人はこの2点だけでしょう。
立志伝的な話が嫌いな人っていますよね。
誰かの自慢話を聞いて何が楽しい!って思う人。
別に否定はしていません。
人それぞれの考え方だから、それはそれでアリだと私は思います。
それから、歴史が苦手な人もこの本を読んでいて苦痛に感じるかも知れません。
映画版『海賊とよばれた男』
私は見ていないので何ともいえません。
ただ、本書を読んで観たいと思いました。
『海賊とよばれた男』読書後の感想
読んでいる最中や、読み終えてから感じた感想をまとめてみます。
先におススメ度で80点としたように、私自身この本はとても楽しめました。
それでも、いくつか「ん?なんだろ・・・」と一種の違和感を感じる部分があったので、その点を3つ取り上げてみます。
何故に実在の人物名と会社名じゃないのか?
この本は実在の人物と実在の会社の伝記本です。
- 国岡商会は出光興産
- 国岡鐵造は創業者の出光佐三
出光をよく知ってる人に聞くと、「まんま」書かれているそうです。
ならば、何でわざわざ偽名にしたのかしら?
その点がちょっと謎です。
1人の人間の英雄的な生き様を湛える本なんだから、本名で書けば良かったのにと思うのは私だけでしょうか?
それとも、書けない理由でもあったのかな・・・。
ちなみに、出光興産のHPに創業者の事をまとめたページがありました。
この本を読んだ後で見ると、感慨深いものがあります。
百田さんは役人を心底嫌いなのか?
この『海賊とよばれた男』に出てくる役人は、ほぼ全てがダメ役人として描かれています。
数名、肝の据わった役人も居ますが稀です。
ほぼ全ての役人は、頭が固かったり、融通が利かなかったり、発想が乏しかったり、責任感がなかったり・・・と散々な描かれようです。
善と悪をハッキリさせ、読むものに鐵造の凄さを伝えるにはよりコントラストを際立たせる必要があったのかも知れません。
ですが、ちょっと、ほんのちょっとだけですが、役人を悪く書きすぎでは無いかと思いました。
その私の思いに答えてくれたのが、解説を書いている堺屋太一さんでした。
詳しくは解説を読んで頂きたいのですが、「役人には役人の倫理がある」としてフォローしているのが面白かったです。
それにしても、百田さんは役人が嫌いなんでしょうかねぇ・・・。
「永遠の0」の宮部さんを出す必要あったの?
戦中、上海の日本軍航空基地を鐵造が訪れるシーンがありますが、そのタイミングで飛来したゼロ戦から降りてきた搭乗員を描く下りがあります。
そして、搭乗員の名前は「宮部」だったと書かれています。
この『海賊とよばれた男』がフィクション性が強い小説なら良いと思います。
ですが、実在した人物の伝記ですよね。
そこに、作者が別の作品で創造した主人公を絡ませるのはどうなんでしょう?
私としてはあまり歓迎したい流れでは無かったです。
宮部さんが出てきたのは嬉しいのですが、この作品では見たくなかったです。
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