虚像の道化師(著:東野圭吾)を読んだ!
先日の記事では「秘密」をまとめました。
読んでいる際に、東野さんの作品はやっぱり面白いと実感したので、購入したままで読まずに本棚に放置していたガリレオシリーズに手を伸ばすことにしました。
この本はシリーズ第7作にあたります。
単行本として発表された時には4編の収録でしたが、文庫本になる際に、シリーズ8作目の単行本から3編を吸収し、合計7編となっていてちょっぴりお得になっています。
ガリレオシリーズ第7作品、『虚像の道化師』の感想をまとめます。
『虚像の道化師』のあらすじ
短編7作品それぞれを簡単に紹介します。
ガリレオシリーズは詳細を書くとつまらなくなるので鍵になる所はなるべく触れないようにします。
『幻惑す(まどわす)』
宗教法人「クアイの会」を取材するため週刊誌の記者が訪れた日に事件が発生します。
教祖と幹部が集まって道場で話し合いを行っている最中に、教祖の連崎至光は「教団の中に裏切り者がいる」、「今からその者の魂を浄化する」と幹部へ告げて瞑想を始めるのでした。
すると突然、教団の第五部長が目に見えぬ力に圧倒され、悲鳴をあげて床をのた打ち回り始めるのでした。
当初は、週刊誌の記者もカメラマンも、教祖の能力を自分たちに見せつけるために、教団が結託して演技をしていると考えていました。
しかし、苦しんでいた第五部長が道場後方の窓へ走りより、迷う事無く飛び降りて死を選んだ様子を見て、彼らは教祖の持つ能力を信じることになります。
そして、週刊誌にその一部始終を載せるのでした。
教団は第五部長の死を隠す事無く警察へ届け出ます。
さらに信じ難いことに教祖自らが「自分が超能力の加減を間違えて殺してしまった」と出頭してきます。
警察は現場検証を重ねますが、殺害の証拠はなく、どう考えても追いつめられた第五部長が自殺したようにしか考えられませんでした。
所轄では手に余り、ついに警視庁で「変わった事件」を専門に扱っていると考えられている草薙に白羽の矢が立ちます。
しかし草薙も、事件に胡散臭さは感じていても教祖が殺害した証拠を見つけることは出来ませんでした。
また、週刊誌に教祖の力が掲載されたため教団への入信者が急増し、教団は大いに潤うことになったことに対しても、タイミングよく週刊誌の記者が居合わせたことに疑問を感じつつも、殺人事件として捜査する証拠を見出すことは出来ませんでした。
困った草薙の相談を受けた湯川は、最初は事件に関わろうとはしませんでした。
しかし草薙の身内が教団に巻き込まれそうだと知り、ついに重い腰を上げるのでした。
念力で人を操り死に至らしめることが出来るのか?
科学者・湯川の謎の解読が始まります。
『心聴る(きこえる)』
風邪をこじらせて休むわけにいかない草薙は、診察を受けて薬を処方してもらうために病院を訪れました。
彼が混雑する病院の待合室にいると、突然1人の男・加山が暴れだします。
現職の刑事として難なく押さえ込んだ草薙でしたが、男がナイフを隠し持っていることに気付かず、腹部を刺されてしまいます。
幸い命に別状は無かったのですが、重症を負った草薙は入院を余儀なくされるのでした。
事件は、所轄から来た草薙の同期である刑事が担当となります。
彼の取調べで判ったのは、加山は最近「幻聴」に悩まされており、診察を受けるために病院に来たのでしたが、待合室でも再びその「幻聴」が聞こえてパニックになってしまったと言う事でした。
精神障害による犯罪として捜査は終了となる予定でしたが、後輩の刑事から加山と同じ職場の人間が少し前に不審な死を遂げており、しかも加山と同じく「幻聴」に悩まされていたようだと言う報告を聞くと、刑事としての勘が「何かおかしい」と彼に感じさせます。
そして、科学者湯川の力を借りることにするのでした。
多くの人が混在する場所で、特定の人にだけ「幻聴」を聞かせることが果たして可能かどうか?
科学者・湯川の謎解きが始まります。
『偽装う(よそおう)』
湯川と草薙は学生時代の友人の結婚式に出席するために地元へ戻ります。
式が行われる山頂のホテルへ向っている途中、運転していた車がパンクしてしまいます。外はあいにくの悪天候で、風雨に晒されながら草薙は必死にタイヤ交換を行っていました。
そこへ1台の車が通りかかります。運転していた若い女性は、湯川や草薙が雨に濡れているのを見て傘を貸してくれたのでした。
なんとか会場に辿り着いた彼らは友人の式に無事参加します。
友人は地元の町の町長となっており、警察署長や地元の名士も多数参加する盛大なパーティーでした。
そんな式の最中に事件の一報が届けられます。
ホテルの先にある別荘地で、夫婦の惨殺死体が見つかったのです。
折からの悪天候で土砂崩れが発生し、地元の刑事や捜査官が現場に駆けつけられない事を知らされた警察署長は、自分が居ながら何もしない訳にはいかないと考えます。
しかし、現場ではなく裏方専門で署長まで上り詰めた彼は、1人で現場へ行き初動捜査を行うことに不安を感じ、町長を通じて彼の友人である警視庁捜査一課の草薙に同行を頼むでした。
草薙はプライベートな時に仕事をしたくないとは思いつつも、友人の頼みを無碍に断ることも出来ず、署長に同行して現場へ向います。
被害者は高名な作曲家とその妻であり、発見者は彼らの娘でした。そして彼女は、なんと草薙達がパンクで立ち往生していた時に傘を貸してくれた女性だったのです。
現場の状況を見た署長と草薙は、犯人は夫を散弾銃で殺害し、次に婦人を絞殺したと推測し、後日の正式な捜査のために、現場の写真を撮影してホテルへ戻りました。
草薙には同行せずにホテルの部屋で休んでいた湯川は、殺人事件などに積極的に関わる気はありませんでした。
しかし、ついつい草薙が撮影した現場の写真を覗いてしまい、ある不審な点に気付いてしまいます。
さらに、発見者が「あの傘を貸してくれた女性」だと知ると、恩返しだと言って解決に加わるのでした。
ただし、湯川は彼女と話す際には絶対に刑事である草薙を同席させようとはしないのでした。
現場の写真を見た湯川が気付いた点は何か?
傘を貸してくれた女性への恩返しとは?
科学者・湯川の謎解きが始まります。
『演技る(えんじる)』
劇団「青狐」の演出家である駒井良介が自宅で殺害されます。
発見者は駒井の自宅を一緒に訪れた劇団員の女性2名で、そのうちの1人は駒井のかつての恋人であった神原敦子でした。
殺害された駒井は、敦子を捨てて別の劇団員の女性・工藤聡美と付き合っていたこともあり、当初、警察は敦子を疑います。
そのため、敦子は携帯電話を利用してトリックを仕掛けて敦子自身にアリバイがあるように偽装していたのでした。
さらに、凶器と見られるナイフは劇団の所有物であり、内部の犯行者に見せかけた犯行と見せかけるトリックが仕掛けられていましたが、草薙と湯川は敦子のトリックに不審な点を見つけて彼女の偽装を暴くことに成功します。
しかし・・・
判らないのは「何故にばれるような偽装を仕掛けたのか?」でした。
それでも湯川は、事件現場の様子と殺害に使われたとされる凶器に目を付けて、敦子のアリバイ工作は『別の何か』を偽装するためのものであった事を突き止めます。
湯川はどうやって深層に辿り着いたのか?
彼女が隠そうとしたものは何か?
科学者・湯川の謎解きや如何に?
『透視す(みとおす)』
草薙は日頃の捜査協力への接待を兼ねて、湯川を行きつけの銀座のクラブ『ハーブ』へ連れて行きます。
湯川達の席に着いたホステスのアイは、客を喜ばせるためいつも行っているマジックを披露します。
彼女は、湯川の名刺を封筒にしまったままで湯川の名字を当てて見せます。
最初は驚く湯川でしたが、入店の際に預けたコートの内側に記された名前の刺繍を見たのだと看破します。
アイは笑って「正解」と答えるのですが、その後、アイに職業や名前まで当てられ驚きを抱えたまま帰宅することになるのでした。
数ヵ月後、アイは遺体となって発見されます。
捜査を任された草薙は、家族や友人達に聞き込みをしますが、恨みを買うような人間ではありませんでした。捜査は難航しますが、アイの足に付着していた遺留物を追う事で、ついに犯人を突き止めるのでした。
犯人は、密かに行っていた会社からの横領を、アイの透視によって見透かされたと考えて殺したのでした。
しかし・・・
「透視能力」が殺害理由とは捜査報告には書けません。
アイの不思議な能力のカラクリはいったい?
科学者・湯川の謎解きが、思わぬ結末を導き出します。
『曲球る(まがる)』
プロ野球選手柳沢の妻・妙子が、スポーツジムの駐車場で殺害される事件が発生します。
捜査の結果、かつてスポーツジムで警備員をしていた男が金目当てで場当たり的な犯行を行った事が判明し、逮捕されます。
妙子が殺害された日、彼女は置時計を購入していました。
しかし、それを誰に渡すつもりであったのか?妻が無くなった今では柳沢にも理由は判りませんでした。
捜査を担当していた草薙は、柳沢に色々と関わる中で、往年のピッチングを取り戻せずに苦しんでいる彼に、科学の力を復活へのトレーニングに活かすことを提案して湯川を紹介します。
湯川の元で、科学的な解析を活用しながらトレーニングを開始した柳沢のフォームは見違えるように良くなり、かつての投球スタイルが戻りつつありました。
しかし、肝心の「球威」は柳沢の「心」に影響されていました。
彼は、生前の妙子がボロボロになるまで野球はやらず、第2の人生を考えて欲しいと言っていたことを思い出し、現役続行の意思を決断することが出来ずにいました。
そんな柳沢の心を見透かしていた湯川でしたが、ある日偶然、柳沢の車(殺害された日に妙子が乗っていた車)に残されていた事件と関わりのある遺留品に気付きます。
そして、その遺留品を追求することで、湯川は妙子が殺害された日の妙子の動きを解明するとともに、妙子が夫に対して抱いて感情まで突き止めて見せるのでした。
愛する妻があの日にしていた事とは?
時計は何を意味するのか?
妻の本心を知った柳沢が取る行動は?
科学者・湯川が1人の野球選手の人生を変えて見せます。
『念波る(おくる)』
双子の姉妹・磯谷若葉(姉)と春菜(妹)が事件に巻き込まれます。
姉・若葉が自宅で暴漢に襲われて意識不明の重態となります。
この事件に最初に気付いたのは、家族や警察ではなく、離れて暮らす妹の春菜でした。
彼女が言うには、彼女たち姉妹は互いにテレパシーのような能力を持ち、互いの身に何かが起きれば離れていても判ると言うのでした。しかも、春菜は若葉を襲った犯人の顔も思い浮かべることが出来ると警察に伝えてきたのでした。
しかし、超能力を使って捜査したとは言えない警察としては、彼女達の非科学的能力に科学的根拠を与えることを出来ないか考え、草薙を通じて湯川に捜査協力を依頼します。
湯川を良く知る草薙としては、湯川がテレパシー等を信じるはずはなく、捜査に協力を得ることは難しいと考えていたのですが、彼の考えに反して湯川は『双子の超能力』を信じて積極的に捜査に関わるのでした。
そして、春菜が頭に思い描くことが出来る犯人の像を映像化することに協力すると申し出るのでした。
科学的根拠の無いものを信じるはずの無い湯川が、何故に彼女たちのテレパシー能力を信じたのか?
科学の力をもってテレパシーで見た犯人像が映像化出来るのか?
超能力を根拠にして犯人逮捕が出来るのか?
科学者・湯川の謎解きが、事件の真相を暴きます。
『虚像の道化師』のおススメ度はいくつ?
おススメ度は80点です!
シリーズ物は回を重ねるごとに劣化していくなどと言われますが、その法則には当てはまらない気がします。
今回の湯川教授の謎解きは今回も面白かったです。
『虚像の道化師』をおススメする人
- ガリレオシリーズが好きな方
- 謎解きが好きな方
- 長編小説が苦手な方
『虚像の道化師』をおススメしない人
- 物事を斜めに見てしまう人
- 長編小説が好きな人
『虚像の道化師』読後の感想
7つの短編が収められていると知り、1つ1つの話が浅くなってしまうのではないかと危惧したのですが、そんな事はありませんでした!
さすがに実力のある人気作家です。
短いストーリーの中に起承転結が埋め込まれ、読者が判りそうで判らないレベルの謎解きを仕掛け、読み手を飽きさせない工夫が施されていて、7編をあっという間に読み終えてしまいました。
『虚像の道化師』で気に入った2つの話
『偽装う(よそおう)』
謎解きの際に湯川が見せる人情が何とも言えません。
冷徹で孤独な科学者でなく、人との関係を大切にする科学者であることが、これほどの人気に繋がったのだと実感しました。
『演技る(えんじる)』
個人的に中国人の友人がいるため、この話のキーワードとなっている時計のくだりが面白かったです。
色んな要素を取り入れてミステリーを作る作家の力は凄いな・・・、と感じた作品でした。
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