ダッシュ!(著:五十嵐貴之)を読んだ!
2016年最後の読書感想文は、五十嵐さんの作品となった。
年末の慌しい時に、頭を使う難解な本は読みたくなかったので、スッキリ、楽しく読める1冊を求めていたら、この『ダッシュ』になった次第である。
決して、今年1年が慌しく、あっという間に過ぎたからではありません。
『ダッシュ』のあらすじ
埼玉県春日部市にある春日部高校を舞台にして、
3年生になって陸上部を引退した、元陸上部のマドンナ・菅野桃子(通称:ねーさん)と、その親衛隊である2年生の男子4人が、人として走り続けた1年の記録である。
物語は、親衛隊の隊長的役割を担うイノケンの独白で進められていく。
イノケンはねーさんと同じく陸上部所属。取り立てて取柄がないが、ねーさんには可愛がられている。
親衛隊には他にメンバーが3人います。
まずは、親衛隊で一番女子に人気があるが、口が悪く、皮肉屋のリョーイチ。
とある事件で陸上部を退部するが、ねーさんへの想いは4人の中で一番強い。
親衛隊の中の特攻野郎的立場か?
続いて、イノケンと同じく陸上部所属のメタボン。高校2年にして中年以上のメタボ。筋金入りのてっちゃんであり、親衛隊の頭脳的立場でもある。
ちなみに、陸上部であるが砲丸投げ選手なので、ダイエットは必要ない。
最後に、気弱でチビで何かあればすぐに謝罪を口にする・わび助。彼もリョーイチと同じくとある事件で陸上部を退部する。
魚屋の息子で、無免許ながら家業で使うワゴン車を運転することが出来る。
この4人の親衛隊は、ねーさんへの絶対的忠誠を近い、互いに抜け駆けもしない取り決めを交わしていた。
そして、実は真の主人公であるねーさん。
『あたしは極道の妻じゃない』
とねーさんと呼ばれる事に腹を立てているが、そのキップのよさは、ねーさん以外に呼び方が思いつかない。
春日部高校陸上部創設以来、最高傑作といえる走りの才能があり、校内のヒロインとして崇められていたねーさんであったが、3年へ進級すると高校の規則に従って、あっさりと陸上部を引退するのであった。
引退して手持ち無沙汰になったねーさんは、ある日、駅でバッタリ出くわしたわび助に『クラブ』に行きたいと伝える。
抜け駆けはご法度の親衛隊規則に従い、わび助はメンバーにねーさんの希望を伝え、渋谷のクラブへねーさんと繰り出すことにした。
クラブに入店すると、リョーイチは格好つけて飲んだビールにやられ僅かな時間で酔い潰れ、わび助はその介抱に追われることとなり、メタボンはクラブ内の飲食に夢中になりつつ、個性的なダンスを披露してフロアを席巻していた。
一方、イノケンはねーさんと2人きりでダンスをする絶好のチャンスに恵まれたのであるが、踊り出して直ぐにねーさんは足を痛めてしまい、早々にクラブを退散し帰宅することになるのであった。
クラブへの遠征後、取り立てて代わり映えの無い日々を過ごす彼らの元に、
再びわび助から『衝撃のニュース』が届けられる。
彼は、家業の魚屋の手伝いで、病院に納品に訪れた際、ねーさんのお母さんが話していることを聞いてしまったのである。
わび助曰く、
『俺たちのねーさんが、病院に入院している』と。
さらに、ショックなニュースは続く。
『ねーさんは、骨肉腫という病で、足を切断しなくてはいけない状況だ』と。
信じられない4人は、すぐにわび助が話を聞いた病院へ訪れ、
そこで、ねーさんから事の真相を聞くことになるのであった。
ねーさんの骨肉腫は既にかなり進行しているため、生きるためには足を切らなくてはいけない状況であった。
そのような厳しい状況になっても、彼らのマドンナであったねーさんは、持ち前の明るさと強さと優しさを失うことなく、変わらずマドンナのままであった。
親衛隊の4人は、よりいっそうねーさんへの忠誠を強め、手術を迎えるまでの日々をねーさんに捧げる誓いを立てるのであった。
学校が終わると、リョーイチとわび助はねーさんの病室へ直行し、イノケンとメタボンは部活が終わると病室へ直行する、そんな毎日を4人は過ごしていました。
手術を二日後に控えたある日、リョーイチが何気なくねーさんに訪ねます。
「あの・・・ねーさんは、あれですかね、会っておきたい人とかいないんすか?」
「会っておきたい人?」
このやりとりが、物語の進行を『並足』から『ダッシュ』へと変えることになる。
ねーさんの会いたい人は、ねーさんが高校一年の時に付き合った元カレであった。
しかし、彼はサーフィンで名をなすために高校を中退し、日本を出て行ったきり行方知れずとなっていたのである。
ねーさんは、無理しなくていいと言うのであったが、敬愛するねーさんの想いを叶えるため、親衛隊の4人は奔走を始めるのであった。
- 元カレは、今、どこにいるのか?
- ねーさんは手術前に元カレと会えるのか?
5人の高校生の『ダッシュ』が辿り着くゴールは如何に?
『ダッシュ』の魅力はなんだろう?
この本の魅力って何だろう?
40代以上の中年が読んだときには、かつての学生時代を思い出して懐かしむことが出来る点がある。
でも、中年だけをターゲットにしている訳ではないし、作者の狙いは何だろうか?
面白い本です。
読後感はスッキリしているし、何より楽しめる。
自分が狙ったとおり慌しい年末に読むにはピッタリな1冊でした。
しかし、この本の魅力はズバリ何?
と聞かれると・・・困った『ずばっ』と言えないぞ・・・。
面白い本なのは間違いないのだが、上手く説明できません。
なので、気に入った点を取り上げることにします。
過度でないギャクが良い!
先日読んだ『2005年のロケットボーイズ』と同じく、主人公の独白で物語りは進行していきます。その独白と主要人物たちのやり取りが秀逸なところが、ロケットボーイズと同じくこの作品の魅力だと思います。
ただし、ロケットボーイズに比べると、ギャグの頻度は抑えられています。
その分、イノケンの語りを冷静に読むことが出来る点が、私的にはよかったです。
前回はギャグがある意味凄すぎて、小説の世界に浸かろうとする度に、ギャグで現実に戻されてしまうような所がありました。
世の中、適度なギャグが良いのかも知れません。
オヤジギャグ全快は、やはりダメみたいです。
『ダッシュ』で一番気に入ったシーン
一番気に入ったシーンというか、正確にはパートになります。
最終盤の車で成田空港を目指す章が最高でした。
ジェットコースターに乗ったように、上りと下りを繰り返し、急停車に急回転で彼らの未来が翻弄されます。
読んでいる方も、思わず息を止めて小説の世界に没頭してしまいます。
いつも、通勤の列車内で読んでいるのですが、会社の最寄り駅に着いても会社へ行く気になれず、で思わずベンチに座って読み耽ってしまいました。
最終盤、彼らが魚まさへ車を取りに行ったら注意です。
そこから1時間程度は集中して読める状態でなければ、一旦読むのは中断したほうが良いと思います!
春日部から成田の行き方も変わったものだ!
終盤、とある事情により、ねーさんと親衛隊の4名は春日部から成田空港へ向かうことになります。
そのシーンを読みながら、時代の移り変わりを感じました。
スカイアクセス線がある
本書内では春日部から成田空港までの行き方は以下のように紹介されている。
東武伊勢崎線で北千住へ行き、準急に乗り換えて牛田へ出る。京成本線に乗り換えて京成八幡へ。そこで特急に乗って成田空港へ。
約2時間の行程である。
今はだいぶ異なる。
まず、東武伊勢崎線には東武スカイツリーラインと名称がついてるし、
何よりも、京成スカイアクセス線が出来て、成田へはぐっと行きやすくなっている。
ためしに、グーグルマップなどで検索すると、こんな感じだ。
東武野田線で柏駅へ向かい、乗り換えて新鎌ヶ谷まで行く。
そこでスカイアクセス線の特急に乗り換えれば成田まで一直線。
約1時間40分で着く。
他にも武蔵野線を使ったり、都内まで出てスカイライナーを使うなど手段は豊富だ。
2016年の今なら、彼らも楽だったろうになぁ。
首都圏中央連絡自動車道がある
とある事情で成田空港まで行かなくてはならず、彼らは春日部駅へ行くのだが、
運悪く列車は人身事故で止まっており、いつ再開するか判らない状況であった。
そこで、彼らはわび助の実家に行き、魚まさの社用車(ワゴン)で空港を目指すことにするのであった。
(誰が運転するのかは伏せておきます。)
さて、この時のルートも現在とは随分と異なる。
小説内のルートはこんな感じである。
岩槻ICから東北自動車道に乗り、そのまま首都高川口線から江北JC経由中央環状線、堀切・小菅JC経由で葛西JCを通過して首都高湾岸線へ。そのまま東関東自動車へ出れば成田まではほぼ一直線である。
空いていたら2時間強で着く。
これもグーグルで検索するとこうなる。
春日部から国道16号で野田方面へ向かい、
途中で県道3号線で常磐自動車道の谷和原ICで高速へ乗る。
その後、つくばJCTで首都圏中央連絡自動車道に移り東関東自動車方面へ向かい、
大栄JCTで東関道に乗れば空港は直ぐである。
空いていれば1時間半で着く。
どんどん便利になる世の中だなぁ。
今なら、運転した●●も、もう少し気楽に運転できただろうになぁ。
『ダッシュ』のおススメ度はいくつ?
オススメ度は80点です!
前半、落ちが読めそうで読みきれない所が良いと思います。
その上、後半はかなり『ベタな展開』なのに、それを読者に飽きさせない物語の展開も素敵です。
終盤は、読んでいる方も、間違いなく『ダッシュ』します。
『早く、早く、気をつけて、でも急げ・・・』と。
この本は、ネタをばらしては楽しめなくなると思うので、
敢えてこの程度のまとめにしておきます。
絶対に、損はしないと思いますので、読んでみてください。
どこかへ旅行や出張で移動する際に、読むのが良いと思います。
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